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Gallery Kei's Event 2008 オクソザックリ展 

―大麻から糸をつくる過程で生まれた屑を美しい布に甦らせた先人の知恵―
OKUSOZAKKURI EXIBITION

2008.10.11(Sat)-19(Sun)
 木綿が広く普及する以前の日本では、庶民は草や木から繊維をとって糸にし、布を織っていました。
 草といえば大麻や苧麻、芭蕉 葛など。木はシナやオヒョウ、藤、楮 などを使っていたと思われます。特に大麻は、古代から衣類をはじめ、袋や蚊帳地などの生活用品の布だけではなく、神事にも重要な素材として使われていました。

 その大麻を刈り取り、柔らかくして表皮を取り除いたり、裂いて績んだりする工程で生じた屑を 「苧クソ」といいます。

苧は麻のこと、クソはまさに屑です。

 その苧クソを寄せ集めて木綿のように紡いだり、麻糸に巻きつけたりして緯糸として織られた布をオクソの布、裂き織り(サキオリ)がなまってサックリといわれていたところから、オクソの布の仕事着をオクソザックリと呼んでいますが、サックリの正確な語源ははっきりとは解っていません。なぜなら木綿以前の麻だけの仕事着にもこの名称が使われていた記録があるからです。

 その風合いは、大麻糸だけで織られた布よりやわらかく、洗うほどになじんできて木綿のようになります。

 「屑でさえも無駄にしない」と「どうしたら身にまとうものが、柔らかくて暖かい快適な着心地のものがつくれるか」限られた材料のなかから、知恵をしぼった先人の生きた証ともいえます。

 古い時代、大麻を栽培していたところは、必ず屑が出るはずですので、オクソの布やオクソザックリは広い範囲で存在した可能性はありますが、なぜか福井県大野、今庄、石川県羽昨付近で見つかります。

 それらは、明治から昭和初期ぐらいのものです。おそらくもっと以前は、いろいろな所でオクソザックリはつくられていたのではないかと思われますが、定かではありません。

 東北地方は、もっぱら布団の中に、木綿の綿のかわりに入れていたのが見つかります。

 昔人の、例え屑でさえも捨てないで、止むを得ないとはいえ、このような美しい布によみがえらせて生活の中で使っていたことを、忘れ去られる前に知ってほしいとの思いを込めて企画いたしました。

<後記>
 今回この企画展にあたり、英文作成を手伝ってくれたタッドさんが、彼は和食に通じているのですが、 初めて知ったにオクソ布に驚きながらも、「日本人は、それと同じように「おから」も「酒粕」も美味しい料理によみがえらせているよ」と言った言葉に私はハッとした。 つくづく、この国は昔から「もったいない」の知恵を働かせながら、心豊かに生活していたことを、実感した。 と同時に、その心をいつの頃からか失っていったことも・・・

川崎 啓